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弁膜症(べんまくしょう)とは

ヒトの心臓には4つの部屋があり、右心房、右心室、左心房、左心室です。大静脈、肺動脈、肺静脈、大動脈の4つの血管もつながっています。これらを隔てる弁も4つあります。

弁は薄い膜で出来ており、血流によってほとんど抵抗無く開き、閉じる時は漏れなくぴったり閉じます。この弁に異常が起きた状態を弁膜症といいます。

4つの弁の中で、最も厚い筋肉を備え全身に血液を送り出すメインポンプである左心室の入り口と出口にある僧帽弁(そうぼうべん)、大動脈弁(だいどうみゃくべん)に異常が生じた場合が主に治療の対象となります。

大動脈弁と僧帽弁は連なっており、大動脈弁が胸側、僧帽弁が背中側にあります[ 1 ] [ 2 ]。

どちらも、軸は体の右脇の方向を向いていますが向きが逆向きになっています。左心室が全身に血液を送るために収縮する時、僧帽弁は閉じて大動脈弁は開きます[ 3 ]。

左心室が拡張して次に送り出す血液を貯める時、僧帽弁は開き、前室である左心房(さしんぼう)から一気に血液が流入します[ 4 ]。

この時大動脈弁は血圧によって押されて閉じています。この様に交互に開閉する事により、血液を肺→左心房→左心室→大動脈と一方通行で送る事が出来る様になっています[ 5 ]。

この僧帽弁、大動脈弁の異常には、それぞれ閉鎖不全症と狭窄症があります。

僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)

僧帽弁の閉まりが不完全となった状態です。

僧帽弁の膜は多数の紐状の腱索(けんさく)により左心室内腔にある柱状の筋肉、乳頭筋につながっています。吹き流しとパラシュートが合体した様な形をしています[ 6 ]。

この紐が何等かの理由により切れて、膜がまくれ返ってしまい逆流が起きるのが典型的です[ 7 ]。弁尖の逸脱(いつだつ)と呼びます。20代の方から80代までまんべんなくみられます。

この場合、左心室の前室である左心房へ肺から血液が戻りにくくなり、肺うっ血(肺が水分を含んだスポンジの様な状態になる)を生じ、咳、息切れなどの心不全症状につながります。

ただし、逆流がひどい場合でも心臓の筋肉が元気な内は心不全症状が現れない事もあります。その場合でも心臓には無駄な負担が常に、一日10万回の拍動毎にかかっているわけです。

僧帽弁狭窄症(そうぼうべんきょうさくしょう)

弁膜や腱索が硬くなり、開きが悪くなり血液が通りにくくなる状態です[ 8 ]。閉鎖不全症に比べると頻度はぐっと低くなります。

原因はリウマチ熱が主です。関節リウマチとは違う病気です。子供の頃に扁桃腺が腫れる溶連菌感染症にかかった際に、心臓の弁にアレルギー反応による炎症が生じ、これが治る過程で硬くなってしまうのです。

かつて日本でも多くみられましたが、最近は稀になり60才代以上が主です。アジアの国ではまだまだ若い人にも多くみられる様です。

この場合も僧帽弁閉鎖不全症と同じく、左心室の前室である左心房へ肺から血液が戻りにくくなり、肺うっ血を生じ、咳、息切れなどの心不全症状につながります[ 9 ]。

ただし、逆流がひどい場合でも心臓の筋肉が元気な内は心不全症状が現れない事もあります。その場合でも心臓には無駄な負担が常に、一日10万回の拍動毎にかかっているわけです。

大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)

大動脈弁には僧帽弁の様な腱索は無く、3枚のドーム状の膜が大動脈の内側に付着しており、互いが寄りかかる様に閉鎖します。大動脈弁狭窄症は、この動きが悪くなり血液が通りにくくなる状態です。

この主な原因は、加齢に伴い動脈硬化と同様に弁が硬くなってしまうことです[ 10 ]。したがって、70代後半から80才代が主体です。その他の原因として、先天的に3枚の膜が完全に分離せずくっついて2枚になっていたりする二尖弁(にせんべん)があります。現在ではリウマチ熱が減ったので、60才代までにみられる大動脈弁狭窄症の殆どは二尖弁が原因です。

大動脈弁が硬くなると、狭い弁を通して血液を送り出す必要があるので左心室に高圧がかかり筋肉が肥大します。

弁が狭くなればなるほど弁を通る血液のスピードが上がります。水道の蛇口につないだホースをつぶすと水が勢いよく飛ぶのをイメージしてみてください[ 11 ] [ 12 ]。

弁の部分の血流速度は心臓超音波検査で簡単に計測する事が出来、正常値は秒速1m以下です。これが秒速4mになると一般に治療の対象となります。

しかしこの時点であまり症状が無い事も多く、症状が出る場合は立ち眩み、失神、胸の痛み等、さらに進行すると僧帽弁の場合と同じく息切れなど心不全症状が現れます。

最も注意すべきは、あまり症状が無い状態からも不整脈などをきっかけに突然死の原因となりうる事です。

大動脈弁閉鎖不全症(だいどうみゃくべんへいさふぜんしょう)

3枚のドーム状の膜の形にゆがみが生じたり、大動脈弁が付着している大動脈が太くなったりする事で弁の閉まりが不完全になった状態です[ 13 ]。

心臓が一旦送り出した血液がまた戻ってきてしまうため、左心室の内腔が大きくなります。動悸、息切れなどが主な症状です。

しかしこちらも症状が出にくいので要注意です。

心臓が頑張ってつじつまを合わせてしまう訳です。心臓の筋肉が伸び切ってしまう前に治療すれば心臓は再び小さくなります。

弁膜症の治療方法

薬による治療

  • 利尿剤(りにょうざい);尿量を増やす薬です。体内の水分を減らし、肺が含んだ水分も同時に減らし、心不全による息切れを軽くする事が出来ます。
  • 降圧剤;血管を広げて血圧を下げ、心臓が血液を送り出し易くして負担を減らします。
  • 強心剤;心臓の筋肉を刺激して収縮を強くします。主に点滴薬です。

上記の作用を見てわかる様に、薬による治療は、弁の形を治して逆流を止めたり、硬くなった弁をほぐして柔らかくする様な物理的効果はありません。症状は軽くなる事はあっても、根本治療とは言えないのです。

手術治療の適応となる前の段階、もしくは手術を行った後も一時的に体に水分が貯まりやすい時期もあり、利尿剤を用いる事があります。弁膜症により、心臓の筋肉が弱ってしまっている場合も手術だけでなく降圧剤、利尿剤を併用して治療していきます。

 

手術による治療

  • 弁形成術;主に僧帽弁閉鎖不全症が対象となり大動脈弁に対しても一部可能です。僧帽弁閉鎖不全症の殆どは自分の弁を修理する弁形成術によって治す事ができます。多くの場合、弁の輪郭を整えるため弁の周りにリングを逢着します。それに加えて、病変部分を切除して、残りの部分を寄せて縫い合わせる方法や、切れた腱索をゴアテックス糸で代用して作り直す方法、足りない部分の膜を補う方法などいくつかの方法を単独、または組み合わせて修理します[ 14 ]。
  • 人工弁置換術;弁狭窄症の場合、硬くなってしまった弁の柔軟性を取り戻して修理する事が出来ない訳ではないのですが技術的に困難で耐久性にも問題があります。一般的には硬くなった弁を切り取って、代わりに人工弁を縫い付ける人工弁置換術が行われます。人工弁には2種類あります。セラミックカーボンで出来た機械弁と、化学処理した牛心膜を材料として作った生体弁です。年齢や各種条件により使い分けます。ともに血流の力で受動的に開閉するもので、機械弁にも電子部品などは使われていません。

これら手術による治療は人工心肺を使用し、心臓は通常止めて手術をします。

[ 14 ] 僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成手術

カテーテルによる治療

カテーテルとはプラスチック製の細い管の事です。カテーテル治療では人工心肺を使用せず心臓が動いたまま治療をする点が手術との違いです。さらに、皮膚を切開する代わりに血管に管を刺して血管伝いに心臓弁の治療をします。

  • 大動脈弁のカテーテル治療;細く折りたたんだ生体弁をカテーテルの中に収め、硬くなった大動脈弁の部分まで血管伝いに誘導し広げて留置する治療があり、TAVI(タビ)と呼ばれます。通常の弁置換手術を行うには、年齢や合併症の関係で危険が高い場合に行う事が認められています。
  • 僧帽弁のカテーテル治療;2018年4月から保険で可能となった方法です。僧帽弁の前方の膜(前尖;ぜんせん)と背側の膜(後尖;こうせん)を、カテーテルで誘導した洗濯ばさみ状のパーツで合わせて挟んで閉まりを良くする方法です。TAVIと同じく、通常の手術を行うのに条件が悪すぎる方が対象となります。